観察日記
見たままを書く。聞こえたままを書く。体の中ではなくて、外についている目で、外に起こっていることだけを書く。
扇風機をまわしている。風量2がちょうどよい。最近扇風機の風を体に当て続けている。風が当たっていないとなぜか落ち着かない。
大きい扇風機の羽根から力強い風が吹き続ける。扇風機の風はわたしの足を冷やして、そののち炊飯器のある白い棚にぶつかり、左へ反れ、端っこに置いてある野菜置き場のダンボールを揺らす。
ダンボールの一片が、定期的に、カタカタ、カタカタ、と音を出す。
午前中はカラスとすずめが鳴いていた。午後になると鳥の声がしない。夕方になるとまた鳴くのだろうと思う。今日は平日なので公園には未就学児の子とその親しかおらず、小学生や中学生の勇ましい声は聞こえない。いま、誰かがキャッチボールをしているような、音がする。大人かもしれない。
自宅の別室では、同居人がBGMをかけながら、仕事をしている。わからないことがあるとたまに呼び出しがかかる。大したことは伝えられないけれど、それでも何とか役に立っているよう。すこし安心する。
トラックがバックする音が聞こえる。何かをガラガラと押している音も聞こえる。午前中に荷物がひとつ届いた。毎日どれくらいの荷物が、あちらからこちらへ、こちらからあちらへ、移動しているのだろう。この近辺半径5メートル以内だって、相当の量になるんだろう。集荷、発送、運送、配達の、終わりのないループ。運送業の方々がいなくなってしまったら、東京なんてなにひとつ成り立たないのかもな、と、ふと思う。何でもある顔をして、それは、東京の力で成り立っているわけではない。本当は、地に足つけて、ものを準備している人がいるから。ただそれだけのことがなくなったら、全部ひとつずつあっという間に崩れてなくなってしまうんだろうな、概念の東京。
雲間から陽光が差してきた。今日は雲が多く風はおだやかで、洗濯物の乾きもよかろうと思う。朝、同居人がまわした洗濯機から洗濯物を干した。今日やったことはそれくらい。あとはラジオを聞いて、ウェブ連載を読んで、いまこれを書いているだけ。
明日は何をするんだろう。明日は朝、どうするんだろう。自分でもよくわからない。わからないから、わからないまま、これを書いている。わからないことは、わからないままに、しておく。