大好きなきつねさんと、いつも現れるおおかみさん
あるはるかのさえぐさです。
職場に大好きな先輩がいる。齡70歳オーバーの、きつねさん(仮名)。
きつねさんはいつも優しい。何かと気にかけてくれる。8時間勤務ができたりできなかったりするわたしを、唯一、受け止めてくれている。それは、きつねさんの近くに、同じような状況の方がいるからだそうだ。
きつねさんは、あまり多くを語らない。きつねさんは、何回言っても同じことをするので、実は、他の人から少しだけ疎まれていることもわたしは知っている。だけれど、こんな風になってから、きつねさんだけが、ずっと、ずっと、優しくしてくれるままだ。
今朝も、こっそりアイスをくれた。どこで買ってきたのか、家からもってきたのか、よくわからないけれど、
「朝はちゃんと食べなきゃダメだよ!」
って、アイスをくれた。泣きそうになりながら食べた。アイスはドロドロに溶けてた。でも美味しかった。とっても美味しかった。
自分でもどうにもならないことで、どうしようもなく、ほかに手段がなく、仕事量を調整してもらっているけれど、最初は理解を示してくれていた(と思う)人は、今日、おおかみさんになった。まあ、そりゃそうだと思う。そりゃそうだと思う自分と、なぜ、おおかみさんにそんな態度をされなければならないのか、おおかみさんだってそういう時期があったとかなかったとか、言ってなかったっけ?って、思う気持ちと、ないまぜになって、しばし帰り道動けなくなる。
また逃げようとしている。わたしはおおかみさんが怖い。どこにいっても、おおかみさんはいつのまにか現れる。群れを作る。犬笛を鳴らす。わたしは阿呆じゃないからわかる(幻聴?幻覚?)。おおかみさんから逃げてもまたちがうおおかみさんが待っている。どこに行っても何をしても、いつも。いつも、おおかみさんが、わたしを脅かす。
でも。
きつねさんのような人もいる。そして、きつねさんのような人は、大抵、大きな声でものを言わない。静かに、わたしのような人間に、少しだけ手を差し伸べてくれる。
わたしはきつねさんが好きだ。でも、わたしのせいできつねさんが困ったら、とてもとても、嫌なのだ。
わたしはまたおおかみさんから逃げたほうがいいのだろうか。なんだか違う気もする。なんで逃げなきゃいけないのか。なんでいつも逃げなきゃいけないのか。怖いから、恐ろしいから、傷つくから、逃げてきた。別にしがみつく職場でもないことは百も承知だけれども。でも。
ドロドロに溶けたアイスをくれたきつねさんの声を思い出す。きつねさんの手を思い出す。働き者の、節くれだった、うつくしい手。
きつねさん。
わたし逃げなくてもいいのかな。
おおかみさんの犬笛を無視する強さを、あなたの存在が教えてくれている気がするの。勝手な思い込み、なのだけれど。