猫、半袖、猫
あるはるかのさえぐさです。
半袖をもう解禁した。羽織りものをせずに、今ぐらいの時期の朝を肌で感じるのはとてもよい。だいたい朝に風呂に入るので、温まりすぎた手足が少しずつ冷えていく。洗いざらしの髪も適当に乾いてくれる。
昨日の帰り道、猫を触った。通勤路の商店街にある、小さな洋品店の看板猫。名前は知らない。わたしは「魔女の店」と呼んでいる。(店主の女性が魔女みたいだから)
この猫は、時期によって寝る場所が変わる。最近は寒くないので、朝、ガラス越しに椅子に丸まっている姿が見える。昼や夕方、店頭の室外機の上でぼんやり座っていたり、寝そべっていたりする。たまに、ほんの5mくらいをうろついて、また店に戻る。
いつもは触ったりしないけれど、昨日はほとほと疲れていたので、室外機の上で香箱座りをしている彼、または彼女のお鼻の筋を撫でさせて頂いた。うー、とも、ぐーとも、何にも言わずに目を細め、わたしの手を受け入れてくれる。
彼、または彼女は、こうやって日々、道行く人の様々な手を、うー、とも、ぐー、とも言わずに、受け入れる。わたしはいつもそれを横目でみたり、誰も触っていなければ視線だけ送って、手を振っていた。
昨日、彼または彼女が、わたしの手をただ受け入れてくれている時間は、何者にも変え難い瞬間だった。無心に、10秒ほど鼻筋を撫でさせて頂き、お礼をしてその場を去った時、財布を落とした。
すぐに後ろから声をかけてくださった親切な人がおり、(中身なんてほぼ入っていないのだけれど)ぼんやりしたまま、帰宅した。
鼻筋の温かさを今、思い出している。今朝は窓ガラス越しに姿がなかったな。生きているだけで尊いもの。愛してしまうもの。