およぐ、およぐ、泳ぐ

不安障害です。日々のことを書いていきます。

ちいさくてあたたかくてやわらかい

「おんなじ!おんなじ!」

少しハスキーな女の子の声が、一生懸命お母さんに訴えていた。左手はお母さんの右手と繋がれて、エスカレーターに連なる長い列にいる。

 

私が彼女の横を通り過ぎたとき、彼女のちいさな瞳がこちらを見上げ、ちいさなちいさな手が、私の左手を握った。ちいさな名も知らぬ女の子の右手と私の左手。余りにもあたたかくて、ちいさくて、やわらかくて、思わず握られた手を見つめてしまった。

 

1秒も経たないうちに彼女はわたしの手を離した。わたしの小指から順番に、ちいさく、あたたかく、やわらかい手が離れていく。さらさらさらさらと、小指から順番にわたしの手を滑って、彼女の手は消えた。

 

あんなにやわらかいものに、久しぶりに触れた。ちいさくてやわらかくてあたたかいものは、1秒もかからず、わたしの心を一杯にした。あっという間に。