およぐ、およぐ、泳ぐ

不安障害です。日々のことを書いていきます。

歌舞伎町バリア

明日は金曜日だ。木曜日の今朝、どうしても起き上がれず、ひとさまにご迷惑をおかけするのと引き換えに、一日中布団の上にいた。

 

わたしの職場は東京都新宿区歌舞伎町界隈にある。仕事をはじめるのは早朝5時で(これはわたしの希望でそうして頂いた)、早朝5時の新宿は、夜と朝が交差している。新宿駅構内に降り立った瞬間からわかる、濃厚な夜夜中の気配。ホームでうずくまっている人を見ることも少なくない。酔客なのか体調が悪いのか、どちらかわからないけれど、あまりにもホームの端ぎりぎりで座り込んでいる女の子がいたので、駅員さんにお伝えしたこともある。新宿の早朝とはそういう世界だ。

 

歌舞伎町には目には見えないバリアがある。そこに近づくと、歌舞伎町と実はとても近い新宿三丁目などとは全く空気が違う。早朝5時となれば尚更で、シラフと酩酊が入り混じっている空気感にいつも怯えている。

 

歩いている人も、仕事に行く人仕事から帰る人、夜夜中中遊び続けていた人、遊び疲れている人、遊んだままテンションが下がらない人、もう本当に多種多様な人々の気配で窒息しそうになる。早朝5時の歌舞伎町はそういう世界だ。

 

そういう世界を少し歩いた先にわたしの職場はあるので、毎朝実は決死の思いで歩いている。今日はへんなことばを言われませんように、と、こころの中で祈りをつぶやき、どこにも目を合わせず、仕事に行くような佇まいの「男性」をなるべく見つけて、その人の背後数メートルを保ったまま歩行する。早朝5時の歌舞伎町を、駅から職場まで歩くときのわたしなりの技術だ。いつのまにか身につけた。

 

ひとりで歩いていると、どんなに堅い眼差しをして、一心不乱に歩行していても、衝突事故のような「声掛け」を回避しきれない。朝から衝突事故に合うと、ただでさえHPが満タンではないので、それだけで瀕死になる。しかるに、衝突事故との回避率を最大限にアップしておく必要があるのだ。そこで編み出したのが先の方法なのである。

 

なぜか、男性のそばを歩いていると、衝突事故のような声掛けをされにくい。というか、されない。ひとりでいると、あぶない。なんてことない、と受け流すことができずに思いっきりえづいてしまうので、わたしは毎朝このように歌舞伎町を歩く。

 

今日は、この「歌舞伎町バリア」を想像しただけで、布団の上から動けなくなってしまった。昨日は平気だったのに、全くわけがわからないが、動けないのだから仕方なかった。ということで、ひとさまにご迷惑をおかけしてひたすら自宅で安全に過ごしていたのだった。

 

ただ、歌舞伎町バリアがあるとはいえ、早朝の新宿というのは、うつくしくないとは言い切れない。夜が明けるか明けないかの空、林立するビル群、看板、5時ぴったりで消える街灯たち、すっかり消えたネオン、車のライト、人いきれ、雑多に共存するすべてのものが、その時間帯にしかないもので、恐ろしいのだけれど、大っ嫌いとは言えないのだ。

 

明日はたぶん歌舞伎町バリアに負けないと思う。いま、明日の朝のことを考えても怖くないから。明日はご迷惑をおかけした分だけ働けたらいいけれど、そう思うとどうせまた、体が水中にいるようになってしまうので、できる分だけ、体を動かしてこようと思う。歌舞伎町バリアを抜けた、その先で。