およぐ、およぐ、泳ぐ

不安障害です。日々のことを書いていきます。

台風が来ると冷凍ドリアが食べたくなる

あるはるかのさえぐさです。

 

「台風が来ると冷凍ドリアが食べたくなる」

 

というような一文が、頭に浮かぶ。たしか銀色夏生著・「ミタカくんと私」にこのような文章が出てきて、これを読んだわたしは早速真似をして、台風が来るチャンスがあると、「冷凍ドリアが食べたくなるなあ」と書いたり言ったりしていた。本当は全くの嘘である。そんなもの、台風と結びつけたことなんて、その一文に出会うまで、微塵も思っていなかった。

 

田舎の中学生にとっては、それがなんだかとても粋な、もっと平坦な言葉で言えば「おしゃれ」に見え、ただただ真似をしたかった。

 

「ミタカくん」と「私」の関係も、恋慕と呼ぶにはあまりにもさっぱりとしており、かと言って友人と呼ぶにはいささか踏み込んでいるようにも見え、何より、この本に出てくる全ての人たちがひょうひょうとしており、それは当時の私とはまるで真逆で、そのこともまた、「おしゃれ」に見えたのである。

 

のちに、大人になってから触れた「現代詩手帖」の中では、銀色夏生は居ないことになっているというか、「あの人は現代詩ではないので」的な記述がなされており、ひどく落胆したのだけれど、間違いなくわたしの欠片のひとつは、銀色夏生氏の言葉なのだった。

 

台風が来ると何度でも思い出す。いまの私も、台風が来ても冷凍ドリアは食べたくならない。だけれども、台風からの冷凍ドリアへの着地は、何度思い返してみても、うつくしいなぁ、とため息が出るのだ。