1万字超えました。現役インディーズミュージシャンと現役ライブハウス店長の話
こんにちは。
aruharukaのさえぐさです。
今日は、長年疑問に思っていたにもかかわらず放置していたことを、とある方に思い切って聞いてきたので、そのまとめをお伝えします。
- はじめに
- ブラックボックス
- 音楽関係者から声をかけられて・・・その後はどうなるの?
- 新人発掘部門の人が今はほとんどライブハウスに来ない
- もはやメジャーとインディーズの垣根はない
- アーティストが不足している
- booneさんにとって「売れている」と思うアーティスト
- 自分の定規を持つ
- 運を引き寄せるのは
- いくら間口を広げても「光っていない」と意味がない
- おわりに
- オマケ
はじめに
今回お相手をしてくださったのはこの方。
四谷アウトブレイク店長、佐藤boone学さんです!どーん!
この記事は、現役インディーズバンドマン(私)が現役ライブハウス店長(佐藤boone学さん)に聞いた、「音楽関係者に声をかけられメジャーデビューする、の段階を具体的に教えてもらった」から転がる創作にまつわる諸々の記事です。
記事を読むにあたっての前提
・<超重要>「今更そんなこと聞きに行ってこの人恥ずかしくないの?」「そんなのネットで調べればわかるじゃん」と思った方は、この記事読まなくて大丈夫です。私は私のために書いたし、私のために直接信頼できる人に話を聞きに行きたかったから話を聞きに行きました。ここに「書いたこと以外のこと」で、私や私のバンドに対してとやかく言いたくなった人は他の記事を読んだ方が時間の有効活用です。お互い人生思ってるより短いはずだから、時間は有効に使おう。おれのことはおれが決める。あなたのことはあなたが決めてください。
・私が今まで聞いてきた「バンドマンの王道のサクセスストーリー」は、それなりに長い年数活動してきたあいだに見聞きしたものです。「今」は別だと思います。今はライブハウスに音楽関係者の人はほとんど来ないみたいだよ。これは後ほどお伝えします。
・booneさんは四谷アウトブレイク店長になる前、とある音楽制作会社兼イベント会社にお勤めしていた経験があり、その会社での経験と、ライブハウス店長になってからの経験を混ぜてお話してくれています。
・そもそも、ライブハウスでバンド活動、アーティスト活動をしようという人がもはや主流ではなくなっているだろうということは、私も、今回相手をしてくれたbooneさんもわかってます。
この前提を踏まえた上で、読解力を総動員して読んで頂いて、自分の使えそうなところがあったら持って帰って頂けたらいいな〜と思います。おれは思い切って聞いてみてよかったよ。
ブラックボックス
まず、それなりに長い年数バンド活動していて、「王道のサクセスストーリー」というか、「これがバンドマンが歩む方向だと思うよ〜」と各所様々なタイミングで様々な方から見聞きしたのがこちらです。
「ライブハウスで活動してお客さまがたくさんついたら、徐々に演奏するライブハウスの規模を大きくしていって、その合間に全国ツアーやイベントをやったりCD出したりしつつ、バンド名を周知し、お客さまを増やし続けていると、音楽関係者から声をかけられメジャーデビュー」
これは漫画家とか画家とか小説家、なにか創作をやっている全般の人におおまかに当てはまるのではないかと思います。
要は、
「地道に活動して、ファンを増やして、認知度増やして、大手の会社に目にとまるようになったら声かけられて、デビュー」
ってことなのかな。(大雑把)
それで私が、今更はたと疑問に思ったのがこちら。
- 「音楽関係者から声をかけられメジャーデビュー」ってなんじゃ?
- そりゃ一体どういう状況になるんじゃ?
- その先どういう道のりになってるの?
音楽関係者から声をかけられメジャーデビューのあとがブラックボックスで何も知らんしわからん。だって見たことないし、聞いたことないし、音楽関係者に声掛けられたことないしね〜
音楽関係者から声をかけられて・・・その後はどうなるの?
以下インタビュー形式でお届けします。活字好きな人に向けて書いてるんで長いよ。おれは遠慮なく長く書くよ。前提に戻りますけど、「今更そんなこと他人に聞いてこの人恥ずかしくないの?」と思った方は他の記事を読んで時間を有効活用してくれ。お互いの平和のためにそこだけは死守お願いします。それでも何か、私や私のバンドに言いたい方のことは無視しまーす。ありがとうございます。
※※※
私:「音楽関係者から声をかけられてメジャーデビュー」っていうのがありますけど、そもそもまず、音楽関係者ってライブハウスに来てるんですか?いつ?急に来るの?
booneさん:昔はよく来てたね。今はほとんど来ない。昔はメジャーレーベル(これはご自身でググってください)の新人発掘部門の人々が、ばーっと色んなライブハウスに行って、新人を探してた。それこそ、「今おたくのライブハウスで勢いのあるバンドいませんか?」なんてよく聞かれてたよ。
私:じゃあ、まず、私たちインディーズミュージシャンが出会うメジャーレーベルの音楽関係者っていうのは、「メジャーレーベルの新人発掘部門」の方ってことですね。それでそのあとどうなるんですか?
booneさん:新人発掘部門の人がライブを見て、「お、これは光るものがあるぞ」と思ったら直接バンドに声をかける。
私:直接!直で連絡が来るんですか。知らなんだ。そのあとは?
booneさん:だいたいのところは育成期間に入ると思う。そこで、自分に声をかけて来た新人担当の人によると思うけど、例えば、ある程度の期間でたくさん曲作らせたり、練習させたり、レコーディングさせたりして、いい感じになってきたら、さらにその上にいる人に「こんなバンド今いるんですけど、どうですかね〜」って見せる。
私:さらにその上にいる人!新人発掘部門の人の上に、判断する人がいるんですね。会社だもんね、そりゃそうだ。
booneさん:そう。そこで、その上にいる人の「Goサイン」が出て、「よし、じゃあこのバンドにはこんくらいの予算をつけてあげましょ〜」ってなったら、メジャーデビューにあたって、バンドと会社で契約を結ぶ。これはインディーズのレーベルでも主な流れは一緒じゃないかな。
私:契約!それはどんな?
booneさん:たとえば「1年間でアルバムリリース2枚してね」とか。
私:契約期間短っ!最初の契約の時点で期間が決まってるんだ。
booneさん:そう。契約期間と枚数は必ず決まってる。契約期間の中で、ライブさせたり、ツアー行かせたり、アルバム作らせたりする。その内容はバンドと協議の上で、なのか、会社の指示どおり、なのかは、どっちもあると思う。主には会社の指示だとは思うけど。それで、会社が予算つけてやっていることなので、収益出さなきゃいけないのは当然。アルバムリリース2枚でも、全国ツアーでもなんでもいいけど、そこにたくさんの人が関わるわけだから、その人たちの経費も稼がなきゃいけないのよ。だから、お互い合意した条件で、契約期間内に諸々の経費含めて収益が出せなければ、「契約終了、はい、お疲れ様でした」となる。
私:会社だもんね。そりゃそうだ。だから、「すごいなあ、メジャーに行ったな〜」と思ってたら、「ん?インディーズに戻ってきてる?」というアーティストもたくさんいるわけですね。契約終了したから。じゃあ、反対に、それこそ紅白歌合戦でお茶の間に歌が轟くような方とか、ずーっとメジャーで活動している方とかはその契約を更新し続けているほんの一握りの人、ってことか。
booneさん:そうそう。まあ、契約の形も色々あるからね。さっきは「1年でアルバムリリース2枚」とかの契約の形だったけど、「月給制で○○円」とかもあるよ。
私:「メジャーの会社とアーティストで契約を結び、CDを出す」ってことが、メジャーデビューなのかー。なるほどー。
新人発掘部門の人が今はほとんどライブハウスに来ない
私:さっき「メジャーの新人発掘部門の方は、今はほとんどライブハウスに来ない」って言ってましたけど、それはなぜ?
booneさん:CD売れないし、そんなに予算がない、人も割けないからだと思うよ。新人発掘部門の人を動かすってことは、人件費がかかるわけだから。だから今現場に来る人はほとんどいない。四谷アウトブレイクにもほとんど来ない。今はネットで探してる。人を動かす経費がいらないから。
私:ネット!なるほど!だからTik Tokとかでバズってデビューだの、サブスクリプションで再生回数すごい人がデビューだのってことになるのね。
booneさん:そう。そこでメジャーとアーティストとの直接交渉が始まる。今は「売れたい」なら、ライブやるのももちろん大事だけど、ネットでバズるみたいのが、純粋に単純にわかりやすく近道。今は育成期間の予算もないだろうから、会社側としては、いかに一撃でパッと出せるか、みたいな。そういう人はリツイート=攻撃力みたいなもんで、フォロワー=戦闘能力みたいなもんだから。
私:育成期間を設けて育ててあげる、余裕もお金もないってことですね。
booneさん:そうそう。だから、そういう人をリリースすれば、サクッと売れるんじゃない?みたいな。それが指標になってるのは間違いないと思う。
もはやメジャーとインディーズの垣根はない
booneさん:昔は、メジャーとインディーズの線引っていうのは、メジャーの会社(ググってね)からCD出してるひとがメジャーのアーティスト、ってことになってたけど、今は別に境目ないよ。今はメジャーと契約してなくてもCD出せるじゃない?昔は売ることができなかったから。
私:メジャーと契約しないとCDが売れないっていうのは、昔はそういう仕組みだったってことですか?
booneさん:流通の仕組みだね。
私:なるほど。たしかに、今はメジャーと契約してない私たちでも、誰でも、ディストリビューター(ググってね)を使えば全国にCDを流通することができるし、それこそAmazonとかでも売れるし、サブスクリプションだって誰でもできるし、そういう仕組みが整ってきたから、境目がないってことなんですね。
booneさん:そこが昔と今で一番でかい違いだと思うよ。ここ10年くらい俺もメジャーとインディーズの境目なんて考えてない。
私:じゃあ大きい会社の人も考えてないのかな?
booneさん:たぶん考えてないと思うよ。
アーティストが不足している
私:じゃあ、メジャーレーベルでもインディーレーベルでもなんでもいいんですけど、HPによく「音源随時募集中!」みたいなの、書いてあるじゃないですか。あれってぶっちゃけ会社の人は聞いてるんですか?
booneさん:今めっちゃ聞くよ。だって足りないんだもん。
私:足りない?何が?
booneさん:売れるバンドが。
私:今、「バンド」って求められてます?
booneさん:バンドっていうか、今、CDを売るアーティストがいないじゃん。だってCDを売らないと、お金にならないのが会社でしょ。まあ、配信でもなんでもいいんだけど。要は、作品とライブが売れるアーティストっていうのが今、どこの会社も足りてないわけじゃん。
私:足りてないの・・・?それはみんなが自分で配信とか流通とかやっちゃうから?
booneさん:いや、今、そもそも「売れない」じゃん。
私:・・・売れないね。
booneさん:だから「売れる人」が欲しいのは当たり前なんだよ。
私:じゃあ、メジャーレーベル、インディーレーベル問わず、音源募集に応募することは、ある程度意味あるってことですね?
booneさん:逆に今だから応募してきた音源は聞いてると思うよ。昔みたいに数が来ないから、ああいう音源募集も。ただ「会社側が求めているのが何なのか」によって、ふるい落とされるっていうのはある。会社側は、純粋にかっこいい人を探しているわけじゃなくて、「次こういう波が来るだろうから、こういうテイストのアーティスト欲しいな〜」って探してたりするわけだから。
私:次を読んでるんだ。じゃあ、「結果」を出したいんだったら、「次」を読んで作品を作らないといけないってこと?
booneさん:「売れたい」んだったらね。
(ここからbooneさんが「ほんとはこの例え嫌いなんだけど〜・・・」と言いながら「売れるために次を読んで作品を作る」について、ラーメン屋さんに例えて話してくれましたが、ここには書きません(意地悪)。ここを知りたかったら、自分の信頼できるライブハウスの店長なり、音楽関係者の人だったりに、直接聞いてみて。信頼できる人に直接疑問をぶつけてみるって大事だって思ったから。なんも恥ずかしいことじゃないし。)
私:(ラーメン作る例えを受けつつ)でもそれって、「ラーメン」(作品)を作る意味が変わって来るんじゃないかと・・・
booneさん:変わって来る。だから、多くの人にラーメンを食べさせたいのか、自分の好きなラーメンをわかってくれる人に食べさせたいのか、っていうのは、ちょっとやっぱり根本として違うのよ。とは言え、時代を見据えて何か自分を変えたところで売れるかって言ったらそんなことはないし。
私:もう「運」ですよね。
booneさん:「運」だし、ほんとに売れた人ってそんなこと別に考えてないと思う。
私:でもよく言うじゃないですか。「椎名林檎とかはどうやって売れるかって考えて中学生の時から曲作ってた」とか。でもそれで作って売れるんだったらそうやって考えて作ってる人全員売れてるはずじゃない?って思うんですけど。
booneさん:それを分析して、本当に作れる人っていうのはごく僅かだからね。それこそヒャダインとかってそうだと思うし。あの人めっちゃ頭良いと思うもん。
私:でも、そうなってくると、私たちにとっては根本が覆っちゃう気がする。
booneさん:だから、あれはあの人たちにとってはやっぱり「仕事」なわけじゃん。
私:でも根っこは一緒でしょ?「音楽を仕事にしたい」。
booneさん:うん。
私:正直booneさんって「売れる」ってことに興味あるんですか?
booneさん:うーん。売れてくれたら嬉しいけどねえ。俺がライブハウスやってる意味って「売れてるものが見たい」ってわけじゃないからね。
私:逆に売れたら「ケッ」って思う?
booneさん:全然思わない。「やったー!」って思う。いけー!って思う。でも、売れてるものが見たいわけじゃなくて、この小さいライブハウスでしか表現できない人たちもいるし、そういう人たちの、命の炎みたいなのってすごいじゃん。俺はそっちのほうが面白いから。そういう人たちがそのまま売れたら最高よ。
でもそういうことはほとんどないから。余程のことがない限り。
私:「音楽だけで全部賄えてる」っていう状態になったら、「売れてる」ってことになるんですかね?
booneさん:うーん。でも、「音楽だけで全部賄えていても売れてない」って思う人もいるしね。
私:じゃあbooneさんは「売れてる」「売れてない」は、やっている側(演者)主体で決めてるって思うってこと?
booneさん:うーん、やっている側も別にあんまり思わないんじゃないかなあ。みんな不安の塊だしね。
私:そうか、メジャーの場合だったら、それは契約が決まっているし、「成果」を出さなきゃいけないからか。
booneさん:例えば、月給もらってメジャーに所属するってなったら、CD1枚作るにも色んな人が関わって、その人達の月給も稼がなきゃいけないわけだから。ツアー行ったらツアーのスタッフの給料を、そのツアーで稼がなきゃいけないわけじゃん。
私:自分たちの曲と、歌でね。
booneさん:そう。「会場が満杯にならなかった。みんなの給料払えない!」みたいな気持ちになるわけよ。だからそれはそれで大変だよ。
私:整理すると、昔だったら、まず新人発掘部門の人が見に来て、声をかけられ、そこで育成期間があり、その上でさらに上の人がGoサインを出すかどうかを見てもらって、Goサインが出たら、期限付きかつ成果がどれくらいかっていうのを含めた契約がアーティストと会社で結ばれる。で、それを達成できなければ「契約期間が終わりましたのでありがとうございました」とメジャーとの契約が外れる。で、契約を更新し続けていられるのが、お茶の間に知られるような人々。
booneさん:そう。CDが売れる、枚数を稼げるような人。
私:で、今は、CDが売れないから、会社側が人を動かすお金がないので、インターネットで血眼になって良さそうな人を探しておるだろうと。で、この人良さそうだな、ある程度フォロワーもいるな、ストリーミング再生回数かなり稼いでんな、っていうので、メジャーの会社から声がかかる、と。で、その後の過程、育成期間があるのか、とりあえずすぐ曲出しちゃいましょうなのかは、今はちょっとよくわからない、と。そして、メジャーとインディーの垣根はもはやない、と。
booneさん:そういうふうに俺は思うかな。自分たち(インディーズ)でやったほうがお金が廻る場合もあるからね。
booneさんにとって「売れている」と思うアーティスト
私:もうちょっと自分たちの規模感に近づけて質問していいですか?ライブハウスの中で、「こいつら売れてんな」って思うアーティストは、どんなアーティストですか?ギャラ払ってでも呼びたいなって思う人とか?
booneさん:あのね、集客で考えたことはない。
私:おぉ・・・そうなの・・・・
booneさん:「必ずお金を持ってかえる人」が俺にとっては「売れてる人」だから。
私:「お金を持ってかえる」??「赤字にならない」ってこと??
booneさん:例えば、「ギャラ払ってもらわないと出ない」って言ってライブして帰っていく人とか、チャージバックの条件でお金を持って帰る人とか、ノルマがあるけどノルマ以上にチケット売って帰っていく人たち。要は、なにがしかの方法で、アーティスト側を黒字にして帰っていく人たち。
私:極端なこと言いますけど、「私たちはギャラ払ってもらわないと出ません」って言って、四谷アウトブレイクに出演して、実際見に来たお客さんが3人でしたって場合は?
booneさん:でも俺は「売れてんな〜」って思う。
私:それはなぜ?
booneさん:そのギャラ代分の価値を俺がそのアーティストに付けたから。
私:そうか、その条件を呑んでるわけだもんね。それは、その条件でも「見たい」と思うから、ってこと?
booneさん:「見たい」って言うのもあるし、この人たちは提示されたギャラ分くらいチケット売ってくれるかもしれないっていう計算もあるし、この人たちがアウトブレイクに出ることによってうちの店にメリットがあるって思うし。こちらからオファーする場合でも、向こうからのオファーでも、それは一緒。だから、もちろん、断ることもあるよ。「この人達にはそのギャラ分の価値ないな」って思ったら断る。
私:その価値観は、ずーっとbooneさんが店長やってきて、作ってきたもの?
booneさん:そう。俺の、俺だけの定規。アウトブレイクだけの定規。だから、同じアーティストでも、他の店だったら喜んで呼ぶところもあると思うし。
自分の定規を持つ
私:じゃあ、お店ごとの「定規」を知るのも大切ってことなのかな?よく、「自分たちにあったライブハウスに出演したほうがいい」って言うじゃないですか。
booneさん:でもそれは多分、出演してみて、その店に対しての信頼感が生まれるかどうかってことだと思うけど。
私:やっぱり「信頼」になりますよね・・・
booneさん:なる。信頼って、超多角的じゃん。バンドによっては、「この店は立地が良くてお客さんを呼びやすいから信頼感がある」とか。「対バンがすごい良いから信頼感がある」とか。「この店は条件がいいから信頼感がある」とか。それは、バンドにも「定規」があるってこと。
私:あーそうか、そういう「信頼」もあるのか。じゃあ、バンドも「定規」を持つべきなんだ。
booneさん:持つべき。とあるバンドは「この店最高」って思ってるけど、とあるバンドは「この店クソだな」って思ってたりするじゃん。それは、バンドの定規と店側の定規がはまってるから「最高」とおもうってことだと思うよ。
私:なるほどね。
booneさん:だから自分の定規をしっかり持つことだよね。
私:私たちだったらメンバー3人だけど、バンドとしての定規を持つってことですね。
まずは人の目に触れてもらったほうがいいと思って、今まで色んなライブハウスに出演させてもらってきたんです。でも、「共演者とつながりを作って、シーンを作ったほうがいい」とか、そういうこと言われると、「難しいなー」と思ったりするんですけど。
booneさん:それはその店の「定規」だよね。音楽シーン全体の「定規」ではないから。
私:そっか!それはその店の定規だったのか・・・
じゃあ自分たちが、「いや〜、別にシーンを作るとかは自分たちにとってはいらないな」っていう取捨選択する姿勢は、逆に必要なんだ。
booneさん:そう。だからみんな、「これはいらない」って言って、家で自分でパソコンとかで音楽作って、ぼんってリリースするわけじゃん。それこそ、YOASOBIみたいな。それはその人達の「定規」じゃん。じゃあ、その人達が「シーン作らなきゃ」ってせっせとライブハウスに出演してたら、ああなるかって言ったらならないわけで。
私:ライブハウス出てたらああならないですかね?YOASOBIでも?
booneさん:ならないっていうか、その人達はつまんないんじゃない?自分の「定規」と合ってないところでずっとやってるんだもん。だって、その時間を費やしたから「今」の結果があるわけでしょ、きっと。無駄なお金と無駄な時間を全部自分の「定規」だけに集約した結果、世界の「定規」とたまたま合って、売れたってことじゃない?
私:この時代の「定規」と合ったと。
booneさん:だからその「定規」をしっかり持ってないと、今はたぶん難しいよ。というか、つまんないんじゃない?「なんでこんなことやってるんだろう」みたいな。「面白くないのに」みたいなさ。俺はせっかくバンド組んだなら楽しくやって欲しいし。
ただ、この話をみんなに伝えてもみんなが売れたわけじゃないから。時代によって伝える内容が微妙に違っても、本質はずっと一緒のことを伝えてきた。だから、これはこれで俺のひとつの意見だけどね。
運を引き寄せるのは
私:(諸々の話の流れを引き受けつつ)結局「運」なのよね・・・
booneさん:ただまあ、「運」を引き寄せるのは確実に実力と行動だから。最後の最後「運」で、「ダメだった〜」か、「ダメじゃなかった!」が決まっちゃうと思うんだけど、その手前に行くまでに、純粋なクオリティの区別がある。だから「運」だけではないけどね。そこにたどり着くまでには確実に「クオリティ」の話が出てきてるから。
私:いま、私たち、間口を広げるために音楽以外のこともやってみてるんですよ。ラジオやってみたりとか。そこからお客さんが流入してくれないもんだろうか、と思って。
booneさん:それはそれでいい。でも、結果はびっくりするほどすぐ出ないから。そんなに即効性のあるものではないからね、全てにおいて。
私:booneさんも、色んなことやり始めて、「ああ、やり始めたことが実を結んだな〜」と思ったのは、だいぶ時間かかりましたか?
booneさん:だいぶかかったよ。それに、まだ実を結んだとも思ってないし。たまに色んなタイミングが合うと、自分の企画がばーんと行くこともあるけど。
私:全部が自分の計画通りではない、と。というか、計画通りに行くと思ったら詰むってことですよね。
booneさん:計画通りではないよ。それに、人数の推移を予想したら詰むと思うよ。俺も最近、たまにラジオとかテレビとか、いわゆるメディアに出ることあるけど、「なんで俺はこういう所に出演できるようになったんだろう?」って思った時に、「あー、6、7年前のあれかな〜。6、7年前に、外に出よう、外に出ようって発信しようって思って色々やったのが、今やっと返ってきたんだ」みたいな感じ。
私:6、7年前の「発信しよう」って思って頑張った時は何をやったんですか?
booneさん:SNS頑張ろうとかさ、ブログ頑張ろうとかさ。それレベルよ。外になるべくいっぱい発信しましょう、面白いこといっぱい言いましょう、っていうことかな。俺の場合はね。その中にポシャったものもいっぱいあるしさ。打率1割、みたいな感じで6、7年やったら、「やっと返ってきた」って感じだよ。それくらいのタイム感だよ。
私:最初から「正統派ライブハウス」を目指そうっていうのは思ってなかったんですか?
booneさん:思ってない思ってない。俺は隙間を突いていくのが好きだったから。
私:そっか。それがbooneさんの「定規」とはまるものだったんだ。
booneさん:そうそう。だから頑張れたよね。
いくら間口を広げても「光っていない」と意味がない
booneさん:それに、いくらそうやって間口を広げても、肝心の音楽が光ってないと意味がないのよ。間口広げて、見に来てくれても、音楽が光っていないと「お客さん」として定着しない。「お客さん」として定着してもらうには、音楽をいかに研磨できるかってことだと思う。
私:研磨するっていうのは?突き詰めるってこと?
booneさん:やりたいことを突き詰めつつ、「他人が聞く」ことを忘れないってことというか。自分にとって良いと思う音楽と、人が思う良い音楽は違うってことを忘れないというか。だからって「他人に合わせて作品を作る」っていう意味でもないんだけど。自分たちのやりたい音楽をひたすらに研磨するのか、今の世界に必要なもの、かつ、次の世界に必要なものを読んで、いわゆる「職業ミュージシャン」になって音楽を作るのか。それを決めるのが自分たちの「定規」なんじゃない?研磨するっていうのは「これ以上できない」って所まできゅっきゅと磨くってこと。終わりはないからね、マジで。
例えばメジャーのアーティストだったら、プロデューサーがいて、「めっちゃ光ってるんだけどちょっと方向性が違うんだよなー」とか言って、ちょっと、きゅって方向性を変えてくれる。プロデューサーは「今」と「次」を読んで、そういう方向づけをすることがお仕事だから。
私:プロデューサーがいない、自分たちで活動している私たちのようなアーティストの場合は、ライブを見てくれた人が、音楽を聞いてくれた人が、「光ってる」って思うかどうかが重要ってこと?
booneさん:そう。それに自分たちでめちゃくちゃ光る作業をしていれば、周りは絶対その人達が光って見えると思うけどね。PV1本作るのと同じくらい効果があると思う。どんだけ間口広げようが、根本が光ってないと、実際見に来てみたら「ふーん」って終わっちゃうし、映像見た場合でも、どんだけ映像がきれいでも、そこに載ってる音楽で引っかかってくれないと、終わっちゃうと思う。
間口広げる作業ってわかりやすいんだよ。結果も見えるし。でも「光る作業」って全然結果わかんないじゃん。見えないっていうか。でもそれを蔑ろにしてると、どんだけ何やっても、どっかで詰むと思う。
私:研磨し続けるときに、自分達の音楽が属する「ジャンル」って考えなくてもいい?
booneさん:別に考えなくてもいいんじゃない?その時自分がやりたいことで良いと思うし。流行りのリズムに対して「めっちゃいい!」と思うなら、取り入れてもいいだろうしさ。
私:そっか。それも自分達の「定規」。
booneさん:うん。自分の定規に合うんだったらね。
おわりに
懐かしのロッキンオンジャパンなみの1万字超えになりました。
最後まで読んでくれた方、お疲れ様でした。いやー、書くの楽しかったな。
最初にも書いたけど、使えるところがあるなと思ったら、どうぞ各自お持ち帰りください。それぞれの創作人生に活かしてください。おれもそうするから。
ご協力くださった四谷アウトブレイク店長佐藤boone学さん、ありがとうございました!
オマケ
・ナタリーなどの大手サイトにニュースリリース掲載してもらうのは無料だけど激狭き門。1日に何百通と来るからメールを開いてもらえるかどうかが鍵。そのためにメール開いてもらえるようなニュースリリースを頭使って書こう。(ちなみにインタビューを載せてもらうのは、全部有料だそうです。アーティスト側がお金を負担します。)
書き方は
でbooneさんが公開してくれてるよ。
・四谷アウトブレイクはこんなライブハウスであーる。配信設備ばっちりだよ。
・佐藤boone学さんのツイッターはこちら。LINEアカウント公開もしてるから興味があったら連絡してみるといいと思うよ。信頼が築けるかどうかはその時次第だな。ただ、わしは今、booneさんのことを信頼してるってのは、揺るがないな。
それではまた!いやー、楽しかったー!